「ノーベル医学賞の衝撃波」の著者インタビュー

聞き手 グローバルインテル出版編集部:  3月に発売された新書「ノーベル医学賞の衝撃波」についてインタビューを行います。よろしくお願いします。
--Q どうしてノーベル賞についての本を書こうと思ったのですか?

隠木達也 今回受賞された山中先生に共鳴できる点がいくつかあったという事が理由です。まず私は誕生日が1962年9月で、山中先生と同じになります。このため、私の研究者としての背景、たとえばアメリカ留学の時期、帰国してからのポジション探しなど山中先生と同じ経験をする事になりました。それと、私が研究手法として使っていたESTデータベースを山中先生も活用していた点が共感できる大きなポイントでした。当時、私も、とにかく研究費がありませんでしたから、このESTデータベースに注目するしかなかったのです。

--Q そのESTってなんですか?

隠木 人間の遺伝子をすべて解読するヒューマンゲノム計画の中で、生まれてきたDNA配列の切れ端の事です。わかりよく言うとマグロを解体して大トロなど刺身をとるとき生まれてくる「あら」のようなものです。山中先生は、iPS細胞を作る4つの遺伝子を探し出すために、この「あら」を集めたデーターベースを土台として使ったのです。

--Q 山中教授の研究は何故ノーベル賞に選ばれたのだと思いますか?

 隠木 一番の理由は、皮膚細胞を万能な幹細胞へ巻き戻すという中心課題を、研究テーマに設定した事にあると思います。これは、学術的には極めて新しい事でしたし、誰もが利用できる普遍的な内容になりました。

--Q この本を通して読者の方に一番伝えたい事は?

 隠木 一つの大きな発明が生まれた時、その周辺には、さらに大きな成果を生む多くの糸口が誰にも与えられているという事です。それは、特別な地位や富を持った人達だけにではないという事です。むしろ、そういう有利なものを持っていると、新しい時代への突破口を見つける邪魔になる事すらあるのです。

--Q この本の中で一番キーワードとなるものはなんですか?

 隠木 やはり黄金の30代ですね。これは、私が学んだ大学院の研究室でよく使われていた言葉です。この言葉が意味するものこそ、新しい時代を切り開くエネルギーです。私自身すでに50代になりましたので、この言葉を聞くと、今は少しつらいものがありますが・・(笑い)

--Q 他国と比べて、日本の研究機関はどうですか?

 隠木 確かに以前よりは良くなっています。しかし、アメリカと比べるとまだ遅れていると思います。研究費でもそうですし、若い研究者が活躍できる体制が、全国に出来ることが大切です。

--Q どのようなタイプの人が研究者にむいているのでしょうか?

 隠木 一口では答えにくい質問だと思います。例えば、研究者は流行歌手のような者と答えた人がいます。あるいは、生活に困らないお金持ち、日本では鳩山元首相のような人と答えた人もいました。いずれもある意味では正しい答えだとも思いますし、色々なとらえ方があると思います。

--Q 研究者と一般会社員の大きな違いなどはありますか?また研究職のメリット、デメリットはありますか?

 隠木 研究者は、自然を見つめて人生を過ごす人だと思います。これに対して、一般会社員は社会の中の人間を相手にしていると思います。研究者の一番のメリットは、若い時に自分の中にある可能性に挑戦する知性を磨ける事だと思います。デメリットは、そのぶん年齢が上がったとき、他より早く能力の衰えが見えてくるという事でしょうか。

--Q どの世代の方に一番読んで欲しいと思われますか?

 隠木 やはり20代、30代のこれから研究者として大きくなっていく世代の人です。しかし、40代、50代で日本の医学、生命科学界を改革していこうというようなリーダーの人にも是非読んでもらいたいです。

--Q 最後に、著者が考えられる真の研究者とは?

 隠木 やはり、多くの人びとに感銘を与えて、社会に大きな影響を及ぼすようなレポートを創る人だと思います。つまりマイルストーンとなる仕事をする人です。

――― ありがとうございました。(平成25年4月14日収録)

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